新首相となった石破茂氏はいま、相当の窮境にいる。そのことについて石破氏本人がどこまで気が付いているのかどうかはわからないが、10月7日現在、ぼくに入ってきた情報を記しておこう。
まず、自民党内部で、今度の自民党総裁選での党員票、党友票について分析したようだ。その結果、二つの重大な結果がわかった。ひとつは、参議院議員の青山繁晴氏が獲得したいわゆる「ネトウヨ」党員が大量に増えているということ。青山氏は「ネトウヨ」層に絶大な人気を誇っており、党員獲得数では3年連続1位らしい。
そしてもうひとつは、ある一定の期間に大量の党員がいちどきに入ってきたということだ。これを過去の経緯から推測するに、統一教会員の可能性が高い。この二つの要因が重なって、自民党総裁選における第1回党員党友投票で、高市早苗候補がトップに躍り出た、と推測される。
自民党員はこれまでは地方での農協関係者であるとか建設関係者であるとかが大勢を占めていたが、世代交代もあって減少傾向が続いている。このような全国の伝統的な党員から絶大な人望を集めていた石破茂氏が第1回の党員・党友票で高市氏に抜かれたのは、このあたりに原因があるようだ。
この結果、自民党を支える支持層は水面下で大きく変化しつつあると言えそうだ。簡単に言えば、「ネトウヨ」層と統一教会という二大勢力に乗っ取られつつあるということだ。2021年の自民党総裁選に立候補して故安倍晋三氏から全面的なバックアップを受けるまでの高市氏は、党内でもほとんど顧みられない存在だった。この時の総裁選でも当初は泡沫候補と見られていた。ところが、安倍氏の全面的な支援によって、岸田文雄、河野太郎両氏に次いで3位にまで上り詰めた。高市氏が党内で重く見られ始めたのは、この時以来だ。
そして、今回の総裁選。決選投票に敗れたあと、高市氏は自身を支援してくれた麻生太郎氏のもとを訪ねた。TBSの報道によれば、この時、麻生氏は高市氏に対して次のように助言した。
「自民党の歴史の中で3年以上総理を務めた例は7人しかいねえ。俺も菅も一年で終わった。石破はもっと短いかもしれねえ。だから高市、用意しとけ。議員は仲間作りが大事だから、これから半年くらい飲み会に行け」
麻生氏は石破氏に対して個人的な怨恨を抱いており、それが高市氏支援の主要な動機になっている。もともと麻生氏は岸田氏同様、池田勇人元首相以来の宏池会の流れを汲む人脈に位置している。この人脈の政策的眼目は簡単に言えば「軽武装、経済重視」である。ところが、高市氏の政策的姿勢は、対中国敵視政策による「超重武装、経済超軽視」である。高市氏が首相になれば、防衛費はGDP比4%、5%と上っていくだろう。日本経済は破綻である。その高市氏について、自分の私怨だけで支援し続けていこうというのだから、麻生氏は相当に頭の歯車が狂っているとしか言いようがない。
そして、ぼくに入ってきた情報によれば、その麻生氏は10月27日の総選挙が終わったあと、年内に高市氏を担いで「石破下ろし」をしかけるという。石破氏は今回、裏金脱税議員のうち、わかっているだけで6人の自民党の総選挙候補者について非公認とする考えだ。下村博文、西村康稔、高木毅、萩生田光一、三ツ林裕巳、平沢勝栄の6氏だ。このうち旧安倍派は5人。さらに言えば、そのほかに約40人の候補者について比例との重複立候補を認めない考えだ。これも当然、旧安倍派が多い。
このため、旧安倍派の議員の間では反石破首相の空気がみなぎっている。総選挙が終われば、この旧安倍派議員たちが、さきほどの高市・麻生両氏の「反乱」に加わってくることは容易に想像がつく。
そして、今回の自民党内の内乱劇はこれだけでは終わらない。石破首相の敵は、高市・麻生・旧安倍派の「反乱」勢力だけではないのだ。実は、驚くべきことに、石破首相を支えている岸田元首相を中心に「クーデター」のシナリオが着々と練られているというのである。
まず、石破首相を支えているのは現在、菅義偉、二階俊博、そして岸田の3グループだ。このうち、菅、二階両氏は高齢ということもあり、健康上の不安を抱えている。菅氏の名代は森山裕幹事長だが、このグループの中では、菅、二階両氏の影が薄くなるのに従って岸田氏の存在感が増している。
そして、石破総裁誕生前に、この岸田、森山両氏らが集まって練り上げたシナリオは、小泉進次郎総裁誕生を前提としたものだった。このため、小泉進次郎氏では首班指名後の臨時国会で野党との論戦を乗り切ることは難しいと踏んで、最速の解散総選挙のシナリオが組まれた。ところが、実際に新総裁に当選したのは石破氏だった。シナリオを実際に組んだのは財務省だったが、結局、石破氏にはこのシナリオを飲んでもらい、小泉氏用の「最速総選挙」シナリオはそのまま変更なく採用された。
岸田、森山両氏らが次に練っているシナリオが、10月27日投開票の総選挙後の「クーデター」計画だ。総選挙の結果、自民党の議席がどうなるか。現有議席は258人だが、ここからどのくらい減るか。衆議院の定数は465議席で、過半数は233議席。自民党が議席を減らして、単独でこの過半数を割り込んだ場合、「クーデター」が発動される。そういうシナリオが練られているという。
その場合、石破首相は辞任、代わりに林芳正官房長官が臨時代理として内閣を継承、今度は「急な事情のために」議員投票だけで新総裁を選び直すという計画だ。そして、次の総裁候補としては加藤勝信氏が考えられているという話まで伝わってきた。
ところが、ここで驚くのはまだ早い。実は、加藤氏や林氏の名前は臨時のもので、その後に本格政権を作る固有名詞がぼくの耳に入ってきている。その名前は、岸田文雄氏その人である。どうやら岸田氏は、故安倍氏の実例を頭に思い描いているらしい。安倍氏は第1次政権を不本意な形で失って後、時間を置いて第2次安倍内閣で長期政権を続けた。その実例を範としているようだ。
岸田政権の自民党は統一教会問題と裏金脱税事件で窮地に追い詰められた。岸田前首相は、その裏金脱税事件の責任を取る形で辞任したが、国民はまだこの事件そのものを許していない。このために、いま自民党総裁を引き受けることはまさに「火中の栗」を拾うことと同義だ。岸田氏はこの「火中の栗」を石破氏に拾ってもらい、適温にまで冷めたところで自分がそのおいしいところをいただこうという作戦のようだ。
石破氏は、まさに全面敵に囲まれた自分の状況をどこまで把握しているのだろうか。しかし、いずれにしても、石破氏がこの状況を突破して政権を続けるためには、国民有権者を味方につけて中央突破をはかるしかない。今回、森山幹事長らが事前に考えていた、裏金脱税議員も全員「原則公認」という案を退けて、いまわかっているだけでも萩生田氏ら6人の「非公認」を打ち出したように、国民有権者が考えている自民党や日本政治の改革の路線を頑強に打ち出し続けていくしかない。
国民有権者は主権者である。その主権者が後ろについていれば、自民党内の反石破勢力は反乱の打ちようがないし、抵抗のしようがない。だが、石破首相がそのことを忘れて反石破勢力と妥協を図ろうとした瞬間、国民有権者は石破首相を離れていくだろう。その後の政権の運命については語るまでもないだろう。